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theLwordにはまる 今更ながらtheLwordにどっぷり。 気が狂うほどShane McCutcheon。
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すべては妄想。

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数日経って、快晴の日。シェーンはポーチでぼんやりと煙草をくゆらせている。白い煙がゆらゆらと吸い込まれていく空が眩しい。マックスの部屋ではみんなで引っ越しを手伝っているところだ。
「さぼり?」
ひょいと顔を出したベットに問われ、シェーンはにやりと笑った。マックスの部屋からはターシャの笑い声と、アリスが何やら喚く声が聞こえる。
「煙草休憩」
言いながら、ポーチの床をぽんと叩いて、隣に座るように促す。
「マックスはゲイのシングル・ペアレントを支援している事務所の近くに部屋を借りた。そこの組織で子育て支援をしてるらしい。FTMで出産するのは彼が初めてだって、その事務所総出でケアしてくれるみたい。ありがたいけど、モルモットになった気分だってぼやいてた」
自分の引っ越しで手いっぱいのベットにシェーンは説明した。
「この家はアリスが借りるって。ターシャと住む。ターシャは夜勤もあるし、生活の時間帯はずれるけど、片方の寝室をオフィスにしちゃえば、うまくやれるはず、って」
 
「そっちは荷物、片付いた?」
「業者には頼んだけど・・・悪夢よ」
くくっと笑い、シェーンは言う。
「手伝いに行くよ」
「あと一年くらいかかるかも」
ベットはため息をついた。マックスの部屋ではまた笑い声が弾け、今度はカルメンの声が聞こえてきた。あれほど逃げ出したいと願ったLAのコミュニティが急に大切なものに思えてくる。
「寂しくなるわ」
「こっちもだよ」
 
青い空を見上げ、ベットは目を細める。
「カルメンとはどう?」
「先のことはわからないけど、とりあえず、デートの約束はした」
少し照れくさそうなシェーンをベットは肘でつついた。
「やったじゃない」
「まあね」
「浮気しそうになったら、電話してきなさい。必ず止めてあげるから」
「もう浮気はしないよ」
ベットは首をかしげてシェーンを見つめ、
「シェーン、浮気っていうのはね、他の誰かとキスしたり、セックスしたりすることを言うの。付き合っている人がいるのに他の人を好きになったりね。いちゃいちゃするのもやめた方がいいわ」
子供に言い聞かせる風のベットに苦笑いをこぼし、シェーンは頷く。
「わかってる」
 
シェーン! シェーン! シェーン!
どこ行ったのよ、あの筋肉馬鹿。
使えないったらありゃしない。
 
アリスの呼ぶ声は聞こえたけれど、シェーンにはまだ言いたいことがあった。
「考えたんだけど」
煙草を灰皿に押しつけながら。
「ベットの家だけ貰って、あとは寄付することにした。子供のための組織に。虐待されたり、親に捨てられた子供のために」
「そう。ジェニーも喜ぶと思うわ」
すっと立ち上がり、シェーンは眩しい空を背にした。
「私はベットの家に住もうかと思う。ひとりじゃ広すぎるけど、せっかくジェニーが遺してくれたんだし。いつでも帰ってきてよ」
 
「ここがあんたのホームだから」
 
ばたばたと足音が近づいて、シェーンはやべ、見つかる、と呟いた。
「シェーン! あんた、机運ぶの手伝ってよ!」
「ベットもいる! ミズ・トライアスロン! さあ、こっちきて働いて!」
私はうちの片づけが、と呟くベットの手を取って、アリスは無理やり引っ張っていく。その様子に笑いながら、シェーンもそのあとを歩いていった。







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倒れこまないのが不思議なほど青い顔をしたシェーンを支えて、ベッドに寝かせてやり、アリスとベットはキッチンに戻った。疲労困憊した気分でどさりと椅子に腰を下ろす。
カルメンはシェーンの傍にいる。その手を握って離さないのはシェーンなのか、カルメンなのか、ふたりにはわからなかった。
 
 
「シェーンのこと、よろしくね。これ以上あの子を悲しませたくない」
溜息とともに吐き出したベットは目を閉じて、額に手を当てる。
「私、あんたのそういうとこ、すごく好きだよ」
アリスは言う。家族を大事にするところ。
「たまにむかつくこともあるけどさ。でも、そういうのも含めて、実の家族より家族みたいに思えちゃうんだ。家族って、むかつくことも多いけど、でも、やっぱり大好きって言うか、見捨てられないって言うか」
あんたは長女で、私はそりの合わない次女ってとこ。アリスは言いながら、冷蔵庫を開け、ビールを二本取り出した。
「シェーンは末っ子ね。一番家族想いの」
ベットも話にのる。
「絶対家族の悪口は言わないもんね」
「優しいのよ」
「ティナは兄嫁でしょ」
「兄?」
手渡されたビールを傾けながら、ベットはアリスを軽く睨んだ。
「なんとなくね」
アリスは肩をすくめ、言葉を続ける。
「キットは叔母さんで、ヘレナは従姉妹だね、子供のころから仲良しの」
「マックスも従兄弟かな。男の子だから、つるんで遊んだりはしないけど」
「カルメンは頼りない末っ子のしっかりした彼女って役回り」
「彼女になってくれればいいけど」
ベットは言いながら、でも、ふたりの間に愛はみえた、と思う。
「あんたがいなくなると寂しいよ」
キッチンテーブルに視線を落とし、アリスは呟いた。テーブル越しに手を伸ばし、ベットはアリスの柔らかな髪を撫でた。
 
 
言葉もなく、ぼんやりと過ごしていると、カルメンがやってきた。アリスはもう一本ビールを取り出し、手渡しながら訊いた。
「シェーンは?」
「ようやく眠ったわ」
普段の溌剌とした雰囲気は見る影もなく、伏し目がちに答えるカルメンにベットは言う。
「ジェニーとは私たち、このところ最悪で」
わかってる、というように頷くカルメン。アリスも口を開く。
「ジェイミーが、そういうの専門なんだけど、ジェニーは心に傷を負ってるって言ってた」
「私もジェニーを傷つけた。私がきっかけだったのかもしれない」
カルメンも言って、目を閉じた。その言葉に、ベットは当時のことを思い出す。
「あのときのこと、ごめんなさい。謝って許してもらえるとは思ってないけど、やっぱり、謝りたいわ」
カルメンの横顔を見つめて、ベットは言う。アリスも続けた。
「私からも謝る。シェーンを支えてあげられなくてごめん」
家族からの謝罪。そんな言葉が思い浮かんで、こんな場合なのにと思いながら、カルメンは薄く笑った。
「いいの。忘れたってわけじゃないけど・・・、とにかく、もう乗り越えたと思うから」
 
時計を見て、ベットは立ちあがる。
「そろそろ帰らないと。アンジーのこと、キットに任せきりなの」
「私が泊まるから、シェーンのことは心配しないで」
アリスは言って、カルメンを振り向いた。
「カルメンはどうする?」
「今日は帰るわ。仕事に行かないといけないし」
「DJの仕事、順調そうだもんね」
街のクラブに精通しているアリスはカルメンの名前をよく見かけていた。
 
 
アリスはシェーンの寝室を覗いた。スタンドの明りの中、シェーンの瞳が光っているのは見える。
「生きてる?」
窺うように問いかけると、かすれた声が返答する。
「なんとか」
「なんか食べる?」
「いらない」
 
アリスはそっと溜息をついて、シェーンの枕もとに腰かけた。
「あんたさ、人間には幸せになる権利があるって私に言ったけど」
くしゃくしゃに縺れた、シェーンの髪を指先で梳いてやる。あんただって幸せになっていいんだよ?
「タフでクールなシェーンもいいけど、それだけじゃ、幸せになれないよ」
落書きする看板もないしさあ、ととぼけてみせれば、シェーンは微かな笑い声をたてる。
「タフじゃなくても、クールじゃなくても、あんたはあんただし、みんな、あんたのこと愛してるよ」
横を向いてしまったシェーンの髪を、それでも撫でながら、アリスは言った。
「何かを失くすってつらいけどさ。怖がらないで愛してみなよ」
 
こみ上げたものをなんとかやり過ごして、シェーンは口を開いた。
「ねえ、アリス」
いつだってやかましくて、自分を支えてくれる友人の顔を見上げる。
「運命って信じる?」
「運命ね。ベットとティナのことかな」
「あのふたりはそう」
「私とターシャって、違うところばっかりなんだよね。一回数えてみたことあるんだけど」
ポイント制でなんとか逃げ切ったあの一覧表を思い出し、アリスは小さく微笑む。
「合わないところばっかりで、なんで一緒にいたいのかわからないけど、でも、一緒にいたいんだ。だから、これも運命なのかもしれない」
恥ずかしそうに笑って、テイクアウト買ってくる、と立ち上がる。
「あんた、ほんとにいらないの?」
「食べる」
「やっぱりね」
ぽんっと、シェーンの頭をはたいて、アリスは部屋を出て行った。




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エレベーターが目的の階に着くと、そこには弁護士本人が出迎えに出ていた。
「ようこそ、みなさん。大勢ですね」
ジョイスに似たやり手の雰囲気が漂う。
「家族の問題ですから」
自己紹介の合間にベットがそう告げる。
 
「改めまして。私はジェーン・リンチ。ミズ・ジェニー・シェクターの弁護士です。彼女の遺言執行人でもあります」
少し窮屈そうにソファに納まった4人を前に、弁護士はそう切り出した。
「・・・遺言執行人?」
アリスが聞き返す。話が全く見えなかった。弁護士はひょいと肩を竦めると、両手を開いた。
「オーケー。最初からご説明しますね。三ヶ月前に、彼女が私の事務所にやってきまして、遺言を作成しました。主に現金と、今後脚本や小説が売れた場合の売却益を誰に相続させるか、が決定されています。脚本等の売却に関しては、彼女のエージェントが請け負っています。そして、先々週ですね、その一部を書き変えて」
ここで、ぐるりと訪問者たちの顔を見渡す。
「おそらく、今日、みなさんがいらしたのはそのせいだと思うのですが、本来現金のまま相続されるはずだった資産の一部で、ベット・ポーター邸をシェーン・マッカチョン名義で購入する、というのが、そのときの変更事項です。この点に関しては、本日、購入手続きが完了しています」
先々週と言えば、ベットたちがニューヨーク行きを決めて、”売り家”の看板が立った頃だ。
ジェニーがシェーンの名前で家を買おうとしていた。ようやく一つの謎が解け、ベットはシェーンと視線を交わした。
「遺言書の開封は彼女自身の要望で死後10日後と決められていて、今日がちょうどその日です。みなさんさえよろしければ、この場で開封したいのですが」
いつの間にか、弁護士の手には白い封筒があり、反対の声が上がらないのを了解ととったのか、テキパキと封を開け始めた。
 
 
「マックス・スウィニーに十万ドル。アリス・ピエゼッキーに五万ドル。シェーン・マッカチョンにその残りの資産をすべて。脚本等の今後の売却益もこちらに含みます」
ジェーンは短い遺言を読み上げ、情報を補足した。
「現時点で総資産は五十万ドルを超えています。もちろん、ベット・ポーター邸の購入代金を別として。この1ケ月ほどの間に、彼女の脚本や小説が複数売れています。現在進行中の案件も数件あるようです」
驚きに目を見開いた四人の顔を見渡し、弁護士は遺言書の封筒の中から小さなカードを取り出した。
「ミズ・シェクターからのメッセージがあります」
もう一度、全員の顔を見る。
「『マックスと彼の子供には愛を、アリスには謝罪を、シェーンには感謝を。そして、すべての友人に幸運を』」
そのメッセージの意味するところはひとつしかないと誰もが感じた。続く長い沈黙を慣れた素振りで、弁護士は待つ。
「・・・ジェニーは自殺した?」
そう、アリスが口にするまで。
 


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目が覚めると、折り畳んだ足が軋むように痛く、シェーンは顔をしかめた。無理に伸ばそうとするとなにかにぶつかり、カウチで寝たことを思い出す。のろのろと身体を起こすとキッチンから声がした。
「コーヒー飲む?」
「うん」
答えてから、カルメンがいることが信じられず、シェーンはゆっくりとキッチンに近づく。
カルメンはシェーンの貸したTシャツとスウェットを着て、朝日の中でこの光景にしっくりと馴染んでいた。
「カルメン」
思わず名を呼んで、シェーンは戸惑った。何も言うことなどないはずなのに。
「なに?」
コーヒーカップを手渡しながら、カルメンは眉を寄せる。
「えーと・・・」
「なによ?」
「信じられない」
「なにが?」
「ここにいること」
「私も信じられないわ」
ふっと笑みを交わし合って、ふたりは目を逸らす。
 
「それから、昨夜の話」
「あれは・・・」
何事か言いかけたカルメンを遮って、シェーンは言う。
「なんて言えばいいのか・・・、ジェニーが私に服を捨てろと迫ったことがある」
それで、とカルメンは視線で続きを促した。
「そのとき、シェリーといたときの服やペイジといたときの服は簡単に捨てられた」
シェーンはカルメンの手を取った。
「でも、あんたといたときの服は捨てられなかった」
じっとその目を見つめて。
「だから、私も、運命って・・・」
 
「シェーン?」
突然のノックとともに、裏口が開けられた。ぱっとカルメンの手を離し、いつの間にか近づいていた距離に、シェーンは数歩後ずさる。
「シェーン、朝早くからごめんなさい。でも、今、不動産屋から電話があって」
ベットは一気にまくし立ててから、カルメンの存在に気付いた。
「ハイ、ベット」
気まずそうに挨拶をした、この家に泊まったとしか見えないカルメンの姿に驚きの表情になり、シェーンに向かって、思い切り眉を上げてみせる。
「シェーンはカウチで」
「私はカウチで」
慌てた弁解は二人同時になり、ベットはますます怪しんだ。カルメンは思わず額に手を当て、シェーンは自分の髪を掴む。問い詰めようとベットは口を開いたが、今はそれよりも大事な話があることを思い出す。
「まあ、それはあとで聞くとして。シェーン、不動産屋からうちの買い手が見つかったって電話があったんだけど、それが・・・」
「それがどうしたの?」
「あなたが・・・シェーン・マッカチョンがうちを買うって言うの」
 
 
ベットが不動産屋から聞き出した”シェーン・マッカチョンの”弁護士に連絡すると、その日のうちに彼女のオフィスを訪ねることになった。
「なんでアリスがいるんだよ」
ルームミラー越しに手を振るアリスをシェーンは睨んだ。
「こんな面白いこと見逃せないじゃん」
“面白いこと”が弁護士を訪ねることではなく、シェーンとカルメンの関係を指していることはハンドルを握るシェーンにも、助手席のベットにも、アリスの隣に座るカルメンにも明らかだった。
 
「で、やっぱりやっちゃったわけ?」
堪えきれないという様子のアリスが早速言いだすと、シェーンは思い切り顔をしかめた。
「やってない」
「じゃあ・・」
「アル、質問はひとつだけだ」
「そんな・・・」
反論しようとしたアリスはルームミラーに本気の視線を見つけて、仕方ないなとシェーンの攻略は諦めた。
「じゃあ、カルメンに質問」
「アリス・・・」
ルームミラー越しにまだ自分を睨んでいるシェーンにアリスは人差し指を振ってみせる。
「質問はひとつだけ。シェーン、あんたも聞きたいことだよ」
「オーケー、ひとつだけね」
カルメンは頷いた。
「今、付き合ってる人は?」
カルメンもまた、ちらりとルームミラーに視線をやって、シェーンが自分を見ていることを確認した。
「いないこともないけど・・・、真剣な相手はいないわね」
「だってさ、シェーン」
からかうためのアリスの声に、隣のベットからも視線を送られて、シェーンは眉間の皺を深くした。
 
社会復帰を手伝うよ。そう言ってアリスはカルメンがいなかった間のできごとを話し始める。
「一番のビッグニュースはベットとティナがよりを戻したこと。驚くでしょ? あんなに泥沼だったのにさ・・・」
アリスのはしゃいだ声を背中に聞きながら、すっと運転席に身体を傾け、ベットは囁いた。
「それで? どうなってるの?」
謝罪は受け入れられたのか、いや、そもそも許されるわけはないけれど。なぜ彼女は今もここに一緒にいるのか。自分は今朝、何と言おうとしたのか。ベットがこなければ、何を言っていたのか。これから、どうなるのか。
「わからない」
シェーンがぽつりと答えるとベットももう、何も言わなかった。




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誰もが言葉もなく立ち尽くす中、一番に動いたのはやはりベットだった。
「アル、片づけ残ってるでしょ。私もやるから」
言いながら、アリスの肘を掴み、室内へと引きずっていく。すれ違いざま、来客に声をかけた。
「ゆっくりしていって」
それを聞いて来客はかろうじて、唇の端に笑みのかけらを浮かべた。
 
 
「今の、カルメンよね?」
ふたりきりの室内でベットは声をひそめた。
「足はあった」
アリスも囁き返す。
「噂をすれば影?」
どちらからともなく大きく息を吐いて、ふたりは顔を見合わせた。
 
 
シェーンは呆然とカルメンを見つめ、カルメンは彼女から視線を逸らした。
 
長い沈黙の後に。
「ニュースで知って。ジェニーのこと。ベットたちの家が映ってたから、まだここに住んでるかと思って」
何日も迷ったけど。ようやくカルメンは口を開き、シェーンは我に返る。
「あの、ごめん」
口をついたのはただ、謝罪の言葉で。
「何をしたって許してもらえるわけないけど、本当にすまなかったと思ってる」
カルメンに一歩近づき、それでも、触れることは叶わず、言い募る。
「申し訳ない。本当にごめん」
じりじりするような時間が過ぎて、シェーンから目を逸らしたままカルメンは言った。
「その話はあとでしましょう」
 
この家で過ごした時間。ふたりの間に起きたこと。そして、終わったこと。めまいがしそうなほどの想いが一度に押し寄せた。けれど、すべてを飲みこんで、カルメンは顔を上げた。ゆっくりとシェーンに歩み寄り、その目を見つめる。
「ジェニーのこと、なにがあったのか話して」
三年振りになるのか、久しぶりに見た彼女の瞳は悲しみを湛えていて、そんな目をさせているのはジェニーなのか、自分なのか、確かめることはできず、今度はシェーンが目を逸らす。
「どこから話せばいいのか・・・」
「最初から。あなたが逃げ出した後のことを全部」
“逃げ出した”という言葉のあまりの正しさにシェーンは俯いた。
「長い話になるよ」
「時間はいくらでもあるわ」
 
 
父が、と言いかけてシェーンは言い淀み、彼が、と言い直した。
「彼が、ヘレナの一万ドルを持って、女と消えた。私はカーラをバス停まで送って・・・」
あのときを思い出しながら、シェーンはただ、正直であろうと心を決めた。
 
「ファック・シェリー! また、そこからなの?」
「彼女はさ、言うなれば初恋の人、だから」
 
「シェイ。一度会ってみたい」
「シェイのおかげで私も少しは成長した」
 
「その広告、私も見たわ。いい身体してた」
「今も同じさ」
 
「ワックスを燃やされた? なぜそこまで?」
「さあね。腹が立ったんじゃないの?」
 
「ジェニーが監督? なんて言うか、すごそうね」
「ものすごかったよ」
 
「モーリーね。愛してたの?」
「わからない。でも、好きだった」
 
「アデル? すごい裏切りね」
「あの時から始まったのかもしれない」
 
「・・・手すりの上で? 馬鹿じゃないの」
「まあ、自分でもそう思う」
 
「なぜジェニーと寝たの? 彼女が好きだったの?」
「たぶん、許してもらえたのが嬉しくて。私と寝たら、彼女が喜ぶんじゃないかと思った」
 
 
大まかに、それでも三年を語り終えたとき、闇は濃く、時計は深夜を指していた。ベットとアリスは随分前に帰っていて、もういない。今となっては広すぎる家はシェーンが口を閉じると、静寂に包まれた。ポーチは寒いと引き上げた二人は別々のカウチに腰かけ、それが逆に、隣り合って座っていた頃を思い出させた。
 
すっと息をついて、カルメンは言う。
「あなたのせいじゃない」
膝に肘をついて、その顔を隠すようにして、シェーンは首を振る。歯を食いしばり、息をとめても堪えきれず、その瞳からはボロボロと涙がこぼれた。
 
「あなたのせいじゃないのよ」
その肩を抱いて、髪にキスを。優しく背中を撫でて、慰めてやりたい。そんな衝動をカルメンは押しとどめた。
 
「愛してないのに、ジェニーを突き放せなかった。彼女が自殺でもしそうに見えたから?」
カルメンは小さく丸まったシェーンを睨むように見据えた。
 
「私は? あなたに捨てられても自殺しそうもなかった?」
叫びだしそうに高くなる言葉はもう、止められない。嗚咽の合間に謝罪の言葉だけが聞こえてくる。
 
「あなたは私を傷つけて、友達も。みんな傷つけた」
カルメンの頬も涙で濡れる。
 
「同じくらい自分も傷ついた」
 
シェーンはもう何を言うこともできず、自分の腕に顔を押し付け、更に小さく身体を丸めた。まるでこの世から消えてなくなりたいとでもいうように。考えるより先に足が動いてカルメンはシェーンのそばに座り、その身体を抱いた。ただ、涙を流しながら。
 
 
大きく上下していた肩が、やがて、小さく落ち着いてくるとカルメンは熱いものに触れていたとでもいうようにシェーンの身体から手を離した。手のひらは晩秋の夜気にすぐ冷たくなる。
シェーンもまた、その手のひらが、温かい手のひらが離れて初めて、そのぬくもりを失ってしまっていたことを思い出した。袖口で乱暴に顔を拭って顔を上げると、カルメンの顔は案外近くにあって、見上げたその表情は優しいと言ってもいいくらいだった。
 
「怖かったんでしょ?」
溜息とともに吐き出された言葉は質問ではなく、確認で。彼女はわかっていると感じてシェーンはなぜだか悲しくなった。
「怖かった。自分が父親に似ていて、似すぎていて」
三年前なら言えなかった言葉がするりと出てくる。
 
「将来、もっと手ひどく裏切るなら、今のうちにって?」
「十年以上も一緒に暮らした奥さんを捨てて、名前も知らない女とどこかへ行った」
あのとき、こうして話していれば。
 
「でも、それはあなたのお父さんであって、あなたではないわ」
「ごめん」
もう少し、違った方法があったのかもしれない。
 
「私だって怖かった。あなたは世界一の浮気者だし、私は頭に血が上りやすいラテンの星だし」
「ごめん」
正直に話すことは強さに似ている。
 
「半年もしないで、あなたは浮気して、私はそれを許せなくて別れるかも、って思ってた」
「ごめん」
こうして素直に話してくれる彼女こそ。
 
「でも、私は逃げなかった」
微かな溜息とともに。
 
 
目を伏せて、今日はもう遅いから、とカルメンは。
「泊まっていいでしょ」
「もちろん」
反射で答えて、そのあとで慌てて、シェーンはカルメンを見た。
「あなたはカウチで寝るのよ」
ピッと指を立て、カルメンは言う。ふっと笑って、シェーンは頷いた。
「オーケー」
 
 
躊躇いなくシェーンの部屋へ向かう彼女はシェーンが後ろを歩いているのに気付くと、ぱっと振り向いた。
「ついてこないでよ」
「違う。着替えを」
答えたシェーンがにやりと笑うとカルメンは少し、恥ずかしそうな顔をした。
 
無意識にか、カルメンは広いベッドの右側に納まり、今にも寝入りそうな顔で目を閉じた。
「じゃあ、おやすみ」
両手に枕とブランケットを抱えて、シェーンは声をかけた。
「・・・ねえ、シェーン?」
「なに?」
カルメンの声に戸口で振り返る。
「・・・運命だって言ったの、覚えてる?」
胸の深いところを掴まれ、シェーンは声を詰まらせた。
「あぁ・・うん」
背中を向けたカルメンの表情は窺えない。
「私は今もそう思ってるわ」
すぐにおやすみと告げて、カルメンはシェーンの答えを待たなかった。

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